豊かな緑に包まれた明治神宮外苑の一角に位置し、1000坪の美しき庭園でも知られる「明治記念館」。その「儀式殿」が2021年6月にリニューアルし、テーブルや椅子も特注で設置された。神道のしきたりを守りながらの新たな空間づくり、そして空間づくりに合わせた家具づくり。本ページでは、「儀式殿」リニューアルを支えた2名のインタビューをご紹介します。


「結び」をコンセプトに「開かれた儀式殿」へ

明治記念館
営業部 総合企画課 課長
今井 智之

室内と外を結び、「神様との間」を「空間づくり」で表現。

「明治記念館」は、明治神宮の総合結婚式場として1947年に開館し、現在までに21万組以上のご家族の新たな門出を見守ってまいりました。都心にありながらも、専任の庭師によって毎朝手入れされた広い芝生が広がる美しい庭園も特徴です。
そしてこのたび2021年6月、その儀式殿が生まれ変わり、また新たな歴史が始まりました。設定したコンセプトは「結び」です。人生のワンシーンを結ぶ空間、人と人を結び交流が生まれる空間、新しいものと昔からのものをつなぎ結ぶ空間といった意味を込めています。

また、室内と外を結びながら神道の不変性を伝えるため、「神様との間」を「自然環境も含めた空間づくり」で表現しています。室内でも自然を五感で体感でき、さらに外からも式の様子が分かるので、参列者以外の方々にもご覧いただける「開かれた儀式殿」となりました。

どこまで新しさを取り入れられるか。 斬新な儀式殿を具現化。

神道のしきたりは踏襲した上で、どこまで新しさを取り入れられるか。非常に勇気の要る大きなチャレンジでしたが、明治神宮の迎賓施設としての役割も果たし、新しい文化を積極的に取り入れてきた「明治記念館」の儀式殿だからこそチャレンジできると思い、工夫を重ねました。

リニューアル後の空間をご覧くださった関係者の方々からは、「ここまでできるんですね」「想像を超えた新しさですごいですね。驚きました」と声をかけていただけることが多いです。

リニューアルに合わせ、「結婚奉告参拝」を開始。

今回のリニューアルに合わせ、儀式殿で行う「結婚奉告参拝」のご提案を始めました。近年は結婚式を行わないナシ婚に加え、写真撮影のみのフォトウェディングや会食スタイルも増えていますが、「結婚奉告参拝」はまた新しい選択肢です。事前のお打ち合わせや準備していただくこともなく、お申し込みも1週間前まで受付可能な新たな誓いのかたちで、現代のニーズに寄り添います。

また、「明治記念館」は明治神宮の迎賓施設でもあり、結婚式だけでなく、七五三や長寿のお祝いなど、お客様の人生を通してお付き合いいただける施設です。これからも多様なニーズにお応えし、人生のワンシーンを結ぶお手伝いをさせていただきます。

しきたりを守りながら、工夫を重ねてモダナイズ

株式会社丹青社 デザインセンター
クリエイティブディレクター
小出美希

脚に強化ガラスを採用し、デザイン性と強度を確保。

神具を置く「案」、新郎新婦用のスツール

儀式殿のファニチャーリニューアルでは、式の進行を妨げない形でありながらもモダナイズする方法を模索し、特注の家具に反映させました。
まず、神具が置かれる「案(あん: 神事式典で用いられる机または台)」の天板には古来よりある形状をリデザインし、木・ガラス・金物のコンビネーションでシンプルに仕上げました。モダンで清しい印象を空間に与える為に、脚部に強化ガラスを用いながら細い金物でフレームを組むことでデザイン性だけでなく強度も確保しています。

神具の佇まいを継承しながら、和洋折衷に馴染むデザインへ。

琴が置かれる「八脚案」(写真奥)、 親族列席用の「案」・スツール(写真手前)

列席者の方々のテーブルは、もともと儀式殿の中に設置されていた「案」をモチーフにモダナイズしています。
色味は神具に用いられることの多いゴールドの素材感を残しながらも、現代的な和洋折衷の新儀式殿にも合うようリデザインしました。決して主張しすぎることなく、外からの光が当たるとキラリと輝くところも魅力です。そして「案」をモチーフにした格子状のデザインの脚ですが、金物を使用するとどっしりした重めの印象になりがちなので、細い角パイプを使用しつつ本数を多めにすることで、軽やかな印象かつ強度が保てる造りに仕上げています。空間が抜けるようなシームレスな雰囲気を大切にしました。

椅子は胡床を現代風にアレンジ。テーブルとの見え方にも工夫。

親族用の列席椅子に関しては、従来の「 胡床 (こしょう:折りたたみ式の椅子)」の特徴である神様の前で深く腰掛けないよう背もたれを設けない、という点を引き継ぎながらも、より安定してラクに座れるように、座り心地の良さを追求しました。椅子の前部分を空洞にすることで、着物が中に入るようになっているところも座り心地のポイントです。また、テーブルと組み合わせたときの風景も強く意識し、テーブルとリンクするようゴールド色でリンクさせました。

その他の列席椅子は、従来の「胡床」の形状をそのまま踏襲した折りたたみ式で、ベルベット調の張地、エッジ部分にゴールドの留め具を使用し、他の家具や空間との調和を図るようモダナイズしています。

列席者用の「胡床」

今回のプロジェクトでは、家具について本当にたくさんの議論を重ねました。試作も繰り返しましたが、アダルさんは造りが驚くほど丁寧で、ずっと安心感がありましたね。様々な対応を迅速にしてくださって、試作品もすぐに確認できて助かりました。「明治記念館の儀式殿」という歴史ある空間の新たな始まり、「開かれた儀式殿」にふさわしい特別な家具を製作頂き、とても嬉しく思います。