コラム

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9割以上の写真を再撮影?新カタログ制作秘話をインタビュー

1972年からスタートした、アダルが発刊する業務用家具カタログ。2025年5月、第28号となる『ADAL Standard Furniture Collection Vol.28』が創刊いたしました。従来のカタログから、名称や写真イメージまで大きく変更し、お客様からも大きな反響をいただいた新カタログ。今回は、創刊に携わったクリエイティブ事業部・企画開発室の3人にお話を伺いました。

「快適」という目に見えない指標を言語化する

ーーカタログをお見受けしてまず思ったのが、皆さんが作られたのはカタログそのものよりも、コンセプトなんじゃないかと感じまして。

露口:まさにそうです。カタログはきっかけでありアウトプットで、我々が作ったのはまさに「コンセプトや指標の言語化」だと思っています。直近の会社の方針が「原点回帰」だったこともあり、社名の由来でもある「快適な生活空間のアドバイザー」という言葉を改めて見つめ直したんです。「快適」とはすごく抽象的で、無意識下で感じるものであるがゆえに、表現が難しいものでもあるなと。

谷山:カタログに取り掛かる前に、全営業社員にアンケートを取ったんですよ。すると、自分たちの製品にまだまだ愛着が薄いことが分かって。でもそれは決して愛着が薄いのではなく、情緒的な価値を伝えることが難しいからだと考えたんです。

白水:今までは「ひとつずつ丁寧にいいものを作ろう!」とやってきましたが、何をもって「いいもの」なのか、言語化までは出来ていなかったんですね。ですので、まずコンセプトや指標をきちんと言葉にすることから始めました。それが「Think Amenity, Make Quolity.(快適を想い、価値をつくる)」であり、快適に関する3つの指標でもあります。言葉が指標となり、改めて一丸となってものづくりをしていく体制が整いました。

ーー「快適」という抽象的な概念の輪郭を、言葉が担ったわけですね。

露口:その観点で改めて、過去のカタログを見返してみたんです。すると、読んでいて「快適」を感じることが難しかった。どちらかというとプロダクト中心で、空間にまで焦点が当たっていなかったんですね。それなら写真も名前も全部変えて、文脈は引き継ぎながらも、もっと快適さをきちんと伝えられるものにしようと。

白水:そこからは露口さんディレクションのもと、様々な「快適」の分析に移りました。色んなカタログの写真やデザインをとにかく見ましたね。

谷山:軽く1万枚は見たと思います(笑)情報量が少ない方が快適だなとか、天然の光や配色加減などを自分たちなりに分析して。

左:白水 亮佑 右:谷山 良太(企画開発室)

家具が引き立つのではなく、家具によって空間が引き立つことを

ーー新カタログでは、9割以上の写真を再撮影したと聞きました。

露口:今までは全体が見える施工写真のようなものが多かったんですが、寄りの写真に切り替え、シーンが見えるように。ロケハンからすべて同行して、カット割りや小物まで決めました。広角レンズや照明は使わず、なるべく肉眼に近い距離で、人の気配がちゃんと映るように。

谷山:写真に映っている料理も、実は食べかけだったり。日常をきちんと切り取ることをカメラマンさんにもお伝えして。家具が引き立つのではなく、シーンに溶け込んだ家具によって空間が引き立つことを第一に考えました。

白水:すごい家具を作ったよ、というより、実はこの家具ってこんな良さがあるよね、が見えると言いますか。無意識下で感じる快適さを提供できるように、ゆっくり眺めたくなるフォトブックのような印象を得てもらえたらなと。

露口:カタログの名称も「業務用家具カタログ」から「スタンダードファニチャーコレクション」に切り替え、機能だけじゃなく情緒的価値も押し出せるようなものが出来ました。何より、今までは外部のデザイナーさん任せでしたが、そうした企画から実施までを社内中心で出来たことが大きいですね。

ーーそうした経験を社内で出来たことはまさに財産ですね。実際に、社内やお客様の反響などはありましたか?

露口:今まではカタログのコンセプトをきちんと説明出来ていなかったので、各支店で営業の皆さんに向けてそうした場も設けさせてもらえたのも大きいです。営業の皆さんがきちんと自分たちの製品の価値を、言葉で伝えられるようになったと思います。自分たちで作ったから、表現や言葉がきちんと腑に落ちて、伝えられるようになりました。

白水:今回の展示会では、我々企画開発室も同行したんですが、お客様から「今の時代にマッチする良い表現ですね」と言ってもらえましたね。また、我々のような設計や開発の人間が直にお客様とコミュニケーションを取れる機会は少ないので、具体的な声をいただけたことが嬉しかったです。もちろん、営業として販売する難しさも感じました。

露口 治(クリエイティブ事業部)

長い歴史を振り返り、今だからできることを

ーーちなみに、今までのカタログもたくさん読まれたと思うんですが、変化を感じたことはありましたか?

露口:時代背景や情勢が、カタログを通して見えることは面白かったですね。昔は麻雀卓や中華の円卓、焼肉のロースター入りテーブルなども扱っていたんですよ。製品から当時の情勢が垣間見えたり、製品自体が時代を表現していた。長い歴史を持つアダルだからこそ、そうした歴史を踏襲した製品は今後も開発してみたいなと思いました。

谷山:「Luna」の復刻はまさにそうですよね。1989年に発売された製品を、コンセプトに沿って復刻したんですけど。

露口:カタログに掲載した商品点数も、2/3まで減らしたんですよ。その流れで、今まで職人さんたちがたくさん考えて作ってきたものをちゃんと振り返って、今の時代に合わせて昇華させ、復刻しようと。

白水:復刻にあたって、最初は図面通り作ってみたものの、現在の商空間に合わせて強度を高めるなどの調整はしました。でも「Luna」の設計は現在だとまず思いつかないほど素晴らしい。絶対にやらないようなチャレンジングなデザインをされていて、当時の精神を感じましたね。

露口:メーカーとしては新しい商品を常に開発しないといけませんが、むやみに新しいものを出せばいいというわけではない。古いことの中にも新しさのタネはあるので、こうした時代に合わせた再定義や復刻といった取り組みは、今後も続けていければと思います。

『ADAL Standard Furniture Collection』として再出発した新カタログ。アダルが考える「快適」というスタンダードを、ぜひカタログを通して感じていただければ幸いです。また、福岡・東京・大阪の各支店ではショールーム機能を兼ね備えたクリエイティブオフィスにて、家具を実際にご覧いただけます。気になった製品があれば、ぜひ一度お伺いくださいませ。

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