森の中、温もりの記憶を刻む家具。

シャンブル・ドット。それは、フランスの郊外や地方にあり、大きな一軒家の中で家庭的なおもてなしをする宿泊施設のこと。日本ではまだあまり馴染みがないが、熊本県阿蘇の森の中、その空間は存在する。

「アルムの森」の誕生は、今から約30年前。熊本市内で働いていたオーナーが阿蘇の魅力に惹かれ、脱サラして開業。天然温泉の露天風呂やバーカウンター設置など、くつろぎのための工夫を重ねた。

その中でも最大の魅力が、オーナー特製のフランス料理。ディナーのフルコースで味わえる「牛肉の煮込み」は、開業当初から愛され続ける定番メニューだ。阿蘇で栽培された白米と黒米をブレンドしたライスに、そのソースを絡めればもう至福の美味しさである。朝食のパンは、奥さまとオーナーのお母さまによる手づくりで、こちらも美味しさを守り続けている。

そしてもうひとつ、開業時から親しまれてきたのが、ダイニングに並ぶテーブルとチェアだ。深みのあるボルドーと重厚感のあるデザインが品格を醸し出し、やや小ぶりなサイズ感からは可愛らしさも滲み出るダイニングチェア。テーブルは、チェアのテイストに合わせて揃えられた特注品。

三度の大きなリニューアルを経てもなお愛用されてきた。まだ宿泊客が少なかった開業当初は、オーナーご家族もこのダイニングでよく食事をしていたそうで、思い入れが深い。「30年も一緒に生きてきた。アルムの森の大切な一員」と、オーナーは語る。

まるで家族のように迎え入れてくれるオーナーご夫婦。そんなおふたりの宝物は、宿泊した方々からの手紙。部屋に嬉しいメッセージを残してくれるのだそう。テーブルに広げた手紙を眺めながら微笑む。2016年4月に熊本地震で被災した際も、お客さまの笑顔を思い出し、営業再開を諦めなかったとのこと。約1ヵ月後に再開すると、多くの方々が駆けつけた。阿蘇の大自然に抱かれた森の中、30年という時間とともに刻まれてきたのは、「温もりの記憶」。それは決して色褪せることなく、いつまでもここにある。


アルムの森
住所/熊本県阿蘇市乙姫2083-115
電話/0967-32-4500