私たちは現在、これまでの当たり前が根底から覆されるような事態に直面しています。その中でも大きく変わってきているのが「働き方」。「働き方」が変われば、「オフィスの在り方」も変わります。「オフィスという空間づくり」について第一線で活躍する設計者はどう捉えているのか。生の声を追った特別インタビュー企画です。

行きたくなる仕掛け、働きやすい仕組みづくりで、常に「成長するオフィス」へ。


株式会社 梓設計
一級建築士 岩瀬 功樹


株式会社 梓設計
コンピュテーショナルデザイナー 渡邊 圭


空港施設設計をはじめ、日本の建築業界を牽引する「株式会社梓設計」(https://www.azusasekkei.co.jp/ )の岩瀬氏と渡辺氏に、2019年に移転された広大な自社オフィスの活用の現状と近年のプロジェクトニーズの変化についてお伺いしました。


ー2019年に移転された新オフィス「HANEDA SKY CAMPUS」の特徴を教えてもらえますか?

岩瀬)5300㎡の巨大なワンフロアに本社機能が集約されていて、4本のランウェイが縦横斜めに走っています。このランウェイは「空港設計の梓」を体現する滑走路で、パブリック空間としての意味合いが強いです。そしてそのランウェイ以外の空間が、個々のアクティビティに応える特定の機能を備えたエリアになっています。

渡邊)全社員がフリーアドレスで、ワークスペースをはじめ、ブレストスペースや集中ブース、それからラウンジスペースといった様々なエリアを選びながら働けるところが魅力ですね。

ー新オフィスで、どのような変化を感じていますか?

岩瀬) フリーアドレス化されたことで、無駄な物を持たないようになりました。以前は自分のデスクにたくさんの資料を溜め込みがちだったのですが、今は本当にペーパーレスになって、支給されたノートパソコンやタブレットをフル活用しています。

渡邊)「成長するオフィス」というコンセプトに基づき、オフィス移転後も2週間に1度のペースで「グロウアップ委員会」というものを開き、オフィスのさらなる環境改善について話し合っています。IoTによって収集したビッグデータと空間デザインの相関関係をAIで分析していく仕組みが導入されているので、音や換気など様々な面からオフィスとしての機能向上を目指すことが可能です。

岩瀬)また、フリーアドレス化にともない、社内での社員の位置情報が把握できるシステムが導入されたのですが、コロナ禍になってからはソーシャルディスタンスのセンシングにも役立っています。
渡邊)そうですね、もともとフリーアドレス化に向けた仕組みづくりをしていたので、コロナ禍でのリモートワークへの移行もスムーズだったと感じています。


ーアプリを独自開発されたとお聞きしました。開発のきっかけはを教えて頂けますか?

岩瀬)はい、このオフィスは広大なワンプレート構成なので、それを活かしてオフィスをショウルーム化して、発注者・設計者・メーカーの方々が欲しい情報を共有できる場をつくろう、ということになったんです。

渡邊)当初は実際のタイルカーペットが大判で見比べられるよう、オフィス内に色々な種類のカーペットを使用しショウルーム化していたのですが、一度に見比べにくく品番とも結びつけにくいという難点がありました。そこで、気になったらすぐに品番を検索できるアプリ開発につながり、「Pic Archi」が生まれました。 今はカーペットはもちろん、家具・照明・衛生器具の検索機能も充実してきております。

岩瀬)AIが、該当商品だけでなく計3アイテムをピックアップするので、そこで比較もでき、お気に入り機能を使ってストックもできて便利です。今回のアプリ開発のように、設計事務所という枠に捉われず、色々なことにチャレンジしていきたいと思っています。

渡邊)設計事務所がアプリ開発するなんて面白い、というような感じで、興味を持っていただけたら嬉しいですね。もっと登録点数を増やし、ユーザビリティをを追求して、一般の方々にも広げていきたいと考えています。

Pic Archi (ピックアーキ)
街で見かけた建材や家具をアプリで撮影するだけで、AIがメーカーと品番を検索・提案してくれる。

▼詳細はこちら▼
https://picarchi.azusasekkei.co.jp/lp/


ーニューノーマルにおけるプロジェクトの変化は感じますか?

渡邊)以前からAIやVRを活用したプロジェクトは増えていましたが、コロナ禍になって、テクノロジー活用へのニーズが一気に加速した印象ですね。

岩瀬)リアルでのイベントやコミュニケーションが難しい分、バーチャル空間設計の依頼をいただくケースが増えてきました。2020年8月にオープンしたeスポーツ施設「eXeField Akiba」の内装設計や、インテリアのバーチャル展示会の企画・設計を担当しましたが、バーチャル空間づくりはこれまでの建築のフィールドになかった難しさがありますし、クライアント様からのニーズがさらに高度化・複雑化してきた実感もあります。その期待にお応えできるよう取り組んでいきたいです。

eスポーツ施設「eXeFieldAkiba」
「ICT×eスポーツ」をテーマに、新しい文化・社会を創造するための交流施設として東京・秋葉原に2020年8月オープン。オープニングイベントではバーチャル空間も同時公開された。

https://www.ntte-sports.co.jp/exefield/

スペインのインテリアバーチャル展示会「メビウスの輪」
スペインを代表するインテリア企業8社による製品の3D画像が一堂に会するオンライン展示会。 リアルな展示会開催が難しいなか企画され、 2021年9月末までオンライン上で開催される。

https://spain-exhibition.com/


ーこれからのオフィス空間に求められることは何でしょうか?

岩瀬)コロナの影響でほぼリモートワークになり、オフィスという空間がどのようになっていくのか答えはまだ分かりませんが、そのような中でも「オフィスに行きたくなる仕掛けづくり」をしていきたいですね。フリーアドレス化されたことで情報共有への意識が高まり、「プロジェクトの見える化」が行われています。他のメンバーのプロジェクトに刺激を受け、自然とコミュニケーションも生まれるんですよ。

渡邊)そうですね、リモートワークでもコミュニケーションは大切なので、 試験的にApple Watchを社員に貸し出し、個人の運動量をアプリで測定してチーム戦で競い合う企画を実施したところ、すごく白熱しました(笑)。この成功を受け、 国内初の試みで最新型のApple Watch S6を希望社員全員に貸し出し、 ストレス度チェックのテストの実施など健康経営への取り組みを行い、リモートワークだからこそのケアも推進しています。
建物だけでなく、ワーカーの状態に焦点を当てる。たとえ誰も出社していなくても、それが「成長するオフィス」につながっていくのだと考えています。

岩瀬)あとは出社してもオンライン会議をすることが多いので、オフィスの中でオンライン会議をするのに適した環境づくりも必要だと感じています。

渡邊)はい、音の反響ですとか、やはり社員それぞれのアクティビィティに合わせて最適化していくことが大切だと思います。IoTによるデータ収集とAI分析の仕組みを駆使して整備していきたいですね。


ーそんな中、家具メーカーへ今後求めることはありますか?

渡邊)リアルとバーチャルの融合が増えていくと思いますので、バーチャル空間に適した家具を、アダルさんと一緒に模索していきたいです。

岩瀬)家具の枠組みを外して、新しいカタチのコラボレーションに取り組んでみたい。アダルさんとディスカッションしながら、これからの働き方を一緒に創っていきたいです。

インタビューに登場したオフィス事例

梓設計 オフィス「HANEDA SKY CAMPUS
大型物流倉庫を活用した広大なワンフロアに約450名の全社員がフリーアドレスで働く。
第15回日本ファシリティマネジメント大賞(JFMA賞)優秀ファシリティマネジメント賞を受賞 。